磁性の担い手(磁性の源)/Source of Magnetism

物質が磁界の中に入れられたとき、磁気モーメント(磁石の強さとその向きを表すベクトル量)を示す性質、すなわち磁気的な変化を表す性質のことを磁性といいます。磁性を示す物体を磁性体といい、どんな物質でも磁性を持ちます。

物質は原子で構成されており、さらに原子は原子核(陽子と中性子)と電子との集団であるため、磁性の源を知るには原子の持つ磁気モーメントを考えます。

磁石は単極では存在せず必ずN極とS極があります。ある磁石を半分に切ると磁石が2つ出来ます。次にそれぞれの磁石を半分に切ると磁石が4つ出来ます。さらに同じように分割を繰り返し微細化していくと、原子が磁石のような働きをすることが考えられます。

原子構造と略図


原子は原子核と電子から構成されていて原子核はさらに陽子と中性子からできています。陽子は正(+)の電荷、電子は負(-)の電荷で、中性子は電荷なし(±0)の粒子です。原子は原子核を中心として、電子はその周りに陽子の数と同じだけ存在します。よって、原子全体では電荷は、原子核の正と電子の負で打ち消し合い電気的に中性です。

原子の持つ電荷を持った粒子(電子・原子核)の回転により、まず下記3つの磁気モーメントから成立しています。

原子の磁気モーメント/Magnetic Moment of Atoms

電子の磁気モーメント

1.電子の軌道運動による磁気モーメント

《軌道電子の公転》

電子は原子核を中心として軌道運動しています。

マイナスの電荷-eを持った電子が原子核の周りを回転運動するということは、逆向きに電流が流れていると例えられます。コイルに電流を流すと電磁石になるのと同じ原理で磁気モーメントが発生し原子は磁石になります。

この電子の軌道が生み出す磁気モーメントを軌道磁気モーメントといいます。

その大きさは1μBで表されます。μBをボーア磁子といい、磁気モーメントの最小単位になります。

※1μB=1.165×10^-29[Wb・m]


2.電子のスピンによる磁気モーメント

《軌道電子の自転》

電子は自転に相当する角運動量を持っており、これをスピンといいます。

電子の電荷-eが表面にだけあると例えると、電子が自転することによりコイルに電流が流れるのと同じ原理で磁気モーメントが発生し磁石となります。

この電子の自転運動により発生する磁気モーメントをスピン磁気モーメントといいます。その大きさは2μBで表されます。

同一電子軌道には、自転の向きが異なる上向きのアップスピンと下向きのダウンスピンをもったペアになった電子(対電子)が周回運動しています。

多くの場合、原子は複数の電子を持っています。アップスピンとダウンスピンの電子が発生させる磁場は互いに打ち消し合っています。原子のスピン磁気モーメントとして現れるのは、どちらかスピンの向きと余ったペアの組めない電子(不対電子)の数の分だけになります。


3.原子核の磁気モーメント

《原子核の自転》

原子核のスピンに伴う角運動量は電子の角運動量とほぼ同じ程度ですが、原子核の質量が電子の質量よりも遥かに大きいです。よって、原子核の磁気モーメントは電子の磁気モーメントに比べて非常に小さく、物質の磁性を論ずるには一般的に無視できますが、磁気共鳴において重要な要素となります。

原子の持つ磁気モーメントは量子力学的総和で表されます。

磁性の源は、原子内の持つ多数の電子による軌道運動磁気モーメントとスピン磁気モーメントによる電子磁石にあるといえます。その意味で全ての物質に磁性がありますが、原子の種類により電子の数や配列構造が違い色々な磁気的性質を示す要因となっています。従って、磁性の源を原子の世界まで遡って追求すると、電子の運動が元となり磁気が生じていることになります。

ところが、多くの元素は軌道運動磁気モーメントが結晶中で消失したり、スピン磁気モーメントがアップスピンとダウンスピンで打ち消し合ったりして、一部の元素を除き磁気モーメントが発生しません。

常温付近で強磁性を示す元素は、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、ガドリニウム(Gd)の4つと、低温で強磁性を示す一部の希土類元素が知られています。

強磁性となる元素の例として、下図に鉄(Fe)原子の孤立した電子軌道模型とスピン方向を示します。

鉄(Fe)原子の孤立した電子軌道模型とスピン方向/Electron Trajectory Model and Spin Direction

鉄の電子軌道模型とスピン方向

電子の軌道の入り方は、元素の原子番号が増加するに従い以下の電子配置ルールにより決定されます。

1.構成原理:電子はエネルギーの低い軌道から順に入る。
2.パウリの排他律:1つの軌道には最大2個の電子しか入れず、2個入る時は電子のスピンは逆向きになる。
3.フントの規則:同じエネルギーの軌道が複数ある場合、各軌道に1個ずつ同じ向きのスピンの電子が順に入った
  後に逆向きのスピンの電子が入る。

鉄(Fe)原子の電子数は26個です。1s~3p電子軌道までの電子は、パウリの排他律により各軌道にはアップスピンとダウンスピンの各1個の2個までしか入れないので、ペアを組み磁気モーメントは打ち消しあって消失します。次に3d電子軌道を見ると最大で10個、スピンの向きを考慮すると(5:5)の電子が入るはずですが、6個しか電子が入っていません。これら6個のうち2個はアップスピンとダウンスピンでペアを組み磁気モーメントは打ち消し合います。しかし、他の4個がアップスピンとダウンスピンでペアが組めず、打ち消し合わない電子(不対電子)状態で残ります。

これらの不対電子によってスピン磁気モーメントが発生します。また、コバルト(Co)は3個、ニッケル(Ni)では2個、3d電子軌道に不対電子をもちます。

鉄(Fe)原子の場合は、価電子軌道(4s軌道)の内側に特殊な軌道(3d軌道)を持ちます。3d軌道(全部で10個の電子が入る)が完全に満たされないまま、価電子軌道に電子が入り3d軌道の電子は結合には寄与せず、不対電子は内在し磁気モーメントが打ち消されず残ります。つまり、鉄(Fe)原子は化合物や結晶中においても磁気モーメントを持っています。

このような鉄(Fe)に代表されるような磁場を加えなくても隣り合う磁気モーメントが揃っていて、自発磁化を持っている物質を強磁性体といいます。

鉄のスピン

鉄(Fe)原子は、4μBの磁気モーメントをもち強磁性をあらわす主体となります。

結晶中の磁気モーメント/Magnetic Moment in Crystal

多数の電子があっても閉殻(内殻軌道)ではアップスピンとダウンスピンの電子がペアで入り全て打ち消し合って磁気モーメントは打ち消しあって消失します。3d遷移元素や希土類元素では、3d軌道や4f軌道の不完全内殻がありフントの規則が成立するため、磁気モーメントは打ち消されないで残ります。

不活性元素を除き孤立した原子は不安定のため、分子を形成したり、イオン化して結晶になったり、金属結合して安定化した状態になろうとします。

分子になる場合は、二つの原子の価電子が共有結合し、ここへ2個の価電子が反対方向にペアで入り磁気モーメントは消失します。

結晶中にあるイオンは周囲の陰イオンの影響で軌道運動が自由にできなくなります。自由イオンでは電子が軌道を回れたのに対し、結晶中では酸素に反発されて軌道が切れ自由に回れなくなります。このため軌道の磁気モーメントは殆どなくなり、イオンの磁気としてはスピン磁気モーメントだけ考えれば良いことになります。

金属結合的な結晶場においては、電子が固定されたイオン的状況の局在性と動き回ってバンド構造をとる巡回性の混ざった性質を有するようになるため、スピンも低減され整数倍的ではなくなります。さらに、交換相互作用という原子同士の近接に伴う電子の軌道交換により、状態エネルギーを下げようとする作用が働いてきます。

交換相互作用と磁性体の種類/Exchange Interaction and Type of Magnetic Material

隣接する原子磁石間に働く力は電子が担っており、原子磁石間の磁気モーメントが互いに揃え合うように働く量子力学的な力を交換相互作用といいます。

磁気モーメントの向きを同じ方向に揃え合う力が働いたら強磁性になり、逆方向に揃え合う力が働いたら反強磁性になります。強磁性体にはキューリー温度があり、この温度を超えると熱揺らぎが交換相互作用に打ち勝ち自発磁化を失います。

強磁性を示す鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)金属では、最隣接原子の3d軌道の電子雲が重なるので、それらのスピン間には直接交換相互作用と呼ばれる力が働き、スピンの方向が同じ方向に揃います。

一方、フェライトなどの酸化物磁性体では、磁性原子間の間に酸素原子があるため磁性原子スピン磁気モーメントの間に働く相互作用は、遷移金属の3d電子同士の重なりで生じるのではなく、酸素の2p軌道電子が遷移金属イオンの3d軌道に仮想的に遷移した中間状態を介して超交換相互作用と呼ばれる力が働きます。

磁性体の種類

磁化曲線と磁区構造の変化/Change in Magnetization Curve and Magnetic Domain Structure

原子磁気モーメントをもつ原子が空間に規則正しく配列している結晶を形成した場合、原子間の強力な交換相互作用により各磁気モーメントを同一方向に揃え、強い磁気モーメントをもった集団が構成されます。

このように外部磁界がないにもかかわらず、磁気モーメントが自ずから揃うことを自発磁化といいます。

磁化曲線と磁区構造の変化


原子磁気モーメントを一方向に揃えた原子集団は、それほど大きな集団にはなり得ないで、単一結晶内に無数の集団となって隣り合った集団同士で磁気モーメントが閉回路を形成します。その結果、外部には磁性が出ないこの原子集団を磁区といいます。図aのように消磁状態では多磁区構造を持ち、各々の磁区によって自発磁化の方向が異なり互いに打ち消しあっているためため、全体として外部に磁化を示さなくなり磁石表面に磁化が現れません。

強磁性体に外部磁場を加えていくと、外部磁場が弱いうちは図bのように磁壁移動して外部磁場方向の磁区の体積が増えていきます。外部磁場を強くしていくと、図cのように磁壁が消失し単一磁区構造となります。さらに外部磁場を加えると、図dのように自発磁化が外部磁場方向に回転し、やがて磁気飽和に達します。

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